2008年3月5日水曜日

博士の愛した数式

久しぶりに、じっくりと小説を読んだ。
ここ2年ほどは、受験生だったこともあり、
読書と言えば、何かの役に立つもの
立ちそうなものばかりで、
純粋に読む行為を楽しむということから
遠ざかっていた。
読んでいて楽しかった。
数学の美しさと人生の美しさが響きあう言葉の旋律を堪能した。

で、読み終わったあと少し考えた。

博士には数学の天才的能力がある一方で日常生活を記憶していく記憶力がない。
僕にはこれといった天才的能力はないが、
幸か不幸か、日常生活の断片を記憶していく記憶力がある。
忘れられない嬉しい記憶。例えば、子供が生まれたときのこと。
忘れられない悲しい記憶。例えば、親友が自殺したという現実。
どっちも僕が僕でいる限り忘れられない記憶なんだけど、
記憶と幸福の関係っていうのはいったいどういうことなんだろうか?

私たちは十万桁もある巨大素数や、ギネスブックに載っている、
数学の証明に使われた最も大きな数や、無限を越える数学的概念についても教わったが、
そうしたものをいくら動員しても、博士と一緒に過ごした時間の密度には釣り合わない。

ふつうに考えたら新たな記憶を保存できない博士の人生は絶望的だ。
しかし、絶望の中からこそ奇跡のような幸福が生まれることもある。
と、いうこともまた人生における真理の一つなのだろうな。
といっても、数学の定理のように絶対的なものではないような気もするが…。
みんながそれぞれの真理を抱えて生きているっていうところがまた人間の面白いところだからね。
それはそれでいいのだろう。だからこそ、その一方で数学は美しいと感じたりもするのであろう。
そういうことなんだな。きっと。

いや、よい小説でした。以上。

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